蒼の産道

蒼い夢だ

これは蒼い夢だ


いつか見た気がするこの蒼い世界を
ただ誘われるままに泳いで逝く僕は

その先に見つけた闇に吸い込まれるように消えて


蒼い夢だ

蒼い闇だ


この蒼い闇を越えれば何があるかなんて
僕は何も知らないのに知っている

やがて目映い青の光に包まれる

そうして僕はまた生まれてゆくんだ

此処に帰る日

夢見ている

君を夢見ている

遠い空を夢見ている


僕は何処にも居ない



青い空が

君と青い空が

遠い空が青くて


僕は何処にも居ない



その先の夢を

見続けることが出来なくて

何処にも居ない僕は

ただ君の手を取った



手を取った

君の手を取った

青い空の下で君の手を取った


僕はいま此処に居る

瞳の中

ああ

夕闇が蒼くて泣きそうだ


どんなに見上げても

僕はもう永遠に

その蒼を手に入れることなど
叶わないというのに

刻々と色を変える蒼を

遠く夢見ることさえ
許されないというのに


この蒼は君の瞳の奥のよう

ああ

この夕闇の世界は
きっと君の瞳の中だね

朝闇の夢

 　　そしてまた、いつもの忘却。

僕はその手を離さない

君はいつか言ったね
遙か望むものなど自分にはないと

だけど

今君の眼下に広がる景色は
君が望んだものだったろう


さあ行こうか共に

いつか見た空の果てまで

桜は永遠を求める夢を見て散るか

いつか散る身だと判っている


いつか果てる命だと判っている


いつか闇を迎える空だと判っている


いつか終わる恋だと判っている




そこに永遠は無いと知っている

全てに永遠は無いと知っている



なのにどうして僕たちは

存在しない永遠を見据えて涙を流すのだろう


永遠はいつも隣にあって

永遠は手の届かないものなのに

春曉の花

嗚呼

悲しき花よ
その夢よ

御霊は高く空に昇りて
愛する者は露と消え

残されたわたくしの胸には
空よりも深く暗い空洞が広がる


その暗き闇の先には虚無
呑み込まれたわたくしは薄くなる

あなたが残してくれた命が
その虚無の先に凛々と

輝いているというのに


嗚呼

何処までも高き誇りに満ちた空よ

その先に手を差し伸べれば
一体何が手に入るというのだろう？

永遠の春

いつか遠い春の日に覚えた

その香りの記憶に呼ばれるが如く

僕の瞳はその愛しき姿を捉える



いつか遠い春の日の初恋に

その白く小さな花弁に魅せられ

僕の記憶は永久に白く塗りつぶされた



宵闇に香り誘うは雪柳君逝く永久の眠りに添えて


その香りが永遠の君の記憶を紡ぎだすから

僕はまた春に向かって進んで行く

雲の鳥

 　待ってくれなんて云うより先に

　鳥は高く風に乗り

　僕を残して朝日を目指す


　そうして大きく羽を広げたら

　鳥は見る間に雲になり

　僕を残して朝日を目指す


　そのうち鳥の雲は千切られて
　
　翼を散っらせていきながら

　僕を残して朝日に消えた


　そうして残された僕はまた
　
　朝日に背中を向けたまま

　鳥の記憶を胸に抱き

　今日という日を始めたのです

　

その終りの続き

夢を見ていた




春一番に咲く白と紫の花の中で
永遠ではないこの春の廻の眠りを貪り
夢を見ていた


風に消えたあの人の命を
傷付いた心の行く末を

やがて来る全ての終焉の日の続きを